医療法人衆和会では2004年7月から電子カルテを導入して参りました。
透析医療は、その反復性・継続性という特殊性もあり、他医療部門に先駆けてITシステムが開発・市販され、改良を加えられています。利点については業務の効率化・ミスの減少に加え、「複数部門での患者情報の共有化」などが報告されています。しかし『電子カルテ』の形式、すなわち平成11年厚生省からの「診療録等の電子媒体による保存について(通知)」における3条件、「真正性・見読性・保存性」を満たしているシステムはまだ作られていません。
最先端のIT技術の一方、透析医療の特殊性について考えて見ますと;(1)血液体外循環という高リスクの治療を、週3回の高頻度で継続せねばならない点、(2)患者と医療機関・スタッフとの関係が密接である点(週3回、1回4~5時間の治療)、(3)患者・家族が患者情報を多く有している点、(4)患者の多くが精神的問題を抱えている点、が挙げられます。特に精神面では、透析患者はしばしば依存的な面と離人的な面、両面を合わせ待ちます。
つまり「知ってもらっている安心感」と、「知られている不安感」です。よって、迅速な情報共有により、透析患者に良質で安心できる医療を提供すると同時に、透析患者の持つ閉鎖的な部分・ウェットな部分を思いやり、大切にする必要があります。
今回我々は、初の透析医療用電子カルテ導入に当たり電子カルテの、既存のITシステムに比べての先進性を明確にし、電子カルテ化の最終目標を「患者中心の医療」と設定しました。
現在市販され、比較的廉価であり有効に活用されている透析専用ITシステムは、バイタルサインも含めたデータ管理からオーダリング・服薬状況まで網羅し、いくつかの欠点もいずれ解決されるでしょう。
あえてこれらシステムから、高価で時として業務が煩雑となる電子カルテ化する意義は何であるかと考えてみました。
最後に、既に言われているように、病院のIT化・電子カルテ化は、収入増加や経費削減など経営上プラスになる事は難しいのが現状です。
では、今から電子カルテ化を始める理由は『地域での信頼の確立』と考えます。
現在米国では、地区によっては80~90%の透析機関を大企業が「チェーン店形式」で運営しており、いずれ日本でも一般企業の医療経営参入が始まった場合、我々民間医療機関はグローバルな大企業に財政力では絶対に勝てません。生き残る道は「患者に選んでもらえる」、「紹介医に選んでもらえる」透析機関となる事であり、その信頼を構築するためには10年単位の年月が必要です。まだフリーキャッシュフローに少しでも余裕がある現在、生き残るため何に投資するかは微妙な問題ですが、我々は『情報処理システム発展による地域での信頼の構築』と考えています。