当院には、人生の最終段階をどのように迎えたいか、患者さんのご希望を聞くための事前指示書という書式があります。たとえば、人工呼吸器はつけたくないなどです。健康な時には考えることもあまりありませんが、いつ、何が起こるかは誰も分かりません。もし、希望があれば、あらかじめ意思表示をしておくことができ、当院ではその希望を尊重いたします。
また、厚生労働省の「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」によれば、患者さんの意思を家族が代弁することもできるようになっています。
ご自身、ご家族の間で人生の最終段階はこうしたいなどの希望がありましたら、当院スタッフへお尋ねください。書式を確認するだけでも考える機会になるかと思います。
リビングウィルと言う言葉は、1969年にアメリカのカトゥナーが提案したもので、生前の信託(living trust)と遺言(will)を組み合わせた「生きている間に効力を発行する遺言」という意味があります。背景として、医療技術の発達(人工呼吸器の発明)により、生命維持装置によって生かされることが希ではなくなってきたことがあります。
このような状況を受けて、「最後は尊厳をもって死にたい」「自らの死に方は自らが最後を決定してよいのではないか」という自己決定権の尊重を主張する人の活動が盛んになりました。
詩人のライナー・マリア・リルケ(1875-1926)は、20世紀のドイツ文学の代表者の一人であり、ドイツ文学史を通して見ても最高峰の詩人の一人に数えられそうです。
また、リルケはよく手紙を書いたことでも知られ、知人や文学者、出版者、パトロンなどに宛てた膨大な数の手紙が刊行されています。彼は、1926年に白血病で亡くなりましたが、モルヒネを拒否し、「どうぞ私が、私自身の死を死ねるよう援助してください」と友人に手紙を書いていたそうです。
これは、彼が自然のまま生を全うしたいという、今でいう「事前指示書」に当たるのではないでしょうか。
ちなみに、彼の死因については、「薔薇の棘に刺されて死んだと」いう逸話が有名のようです。詩人らしい、繊細な逸話ですね。
なんだかやさしい響きがします。メメント・モリは(Memento mori)はラテン語で、「自分が(いつか)必ず死ぬ事を忘れるな」という意味の警句です。日本語では、「死を想え」「死を忘れるな」などと訳されます。
医療が発達し長寿が当たり前の現代においてのメメント・モリは何を考えればよいのか。
1) リビングウィルなどの文書で意思表示をしておく(事前指示書)
2) 家族や主治医に事前に十分伝えておく。
などの心得だそうです。